五十嵐隆 生還 @NHKホール
あのSyrup16gの武道館が2008年だからもう5年という時間が経ったのだ。厳密に言えば途中で犬が吠えるとかもあったので4年か。正直この4年という時間は主観で言えばそう長いものではなかった。ダラダラと冗長な文章をコンパクトにパッケージングしてみると言いたいことなんて何一つ無くなってしまう気がするけど、昨日あの場所で時間と空間を共有できたことをまず感謝したい。おめおめと生き延びてしまって、よかった。そう思わせてくれるライブだったから。
時間も空間も共有できなくて言葉をなぞった追体験から得られる消化不良の思いを抱えて翌日の仕事に出かける人間は多いのだろう。数少ない友人の殆どが行けなかったから、そう思う。
僕が書くのは僕の感想であって誰かの記憶を掠めるほどのものではないし、これが正しい答えだよ、って差し出されても僕はなるべく受け取らずにいたいのですが、僕自身誰かの感想に影響されている部分があるので、なるべく自分の感情の動きも同時に書くことで僕だけの感想に変えたいと思います。「五十嵐、生還やめるってよ」って冗談じゃないことが起こらなくて本当によかった。
僕は17時頃に会場に着いたので物販並んだけど溢れるほどの人でTシャツは欲しかったけれど買えなかった。寧ろ僕はCDを待ちますよ!ずっと待ってるから!の精神で諦めた。19歳の僕がこっそりと立ち上げたサイトで関わりあった友達のおかげでこのライブが観られたことを考えると縁というのはすごいなあと思う。写真撮ってなかったけどお祝いの花が「親類一同」から届いていたと聞いて笑った。家族愛を馬鹿にする奴とはうまい飯が食べられないと思っているから、嬉しくなる。会場に入って、1階の左隅の席に座った。
会場が暗くなって、向こう側が本当にうっすらと光と影だけ透けて見えるようなカーテンが下りたままRebornのイントロが弾かれる。驚いた。いきなりSyrup16gの曲が弾かれるとは思ってなかった。ドラムとベースが重なり、カーテン開くのかなと思いきや、開かないまま1曲目が終わろうとして、五十嵐さんったら照れ屋さんなんだからうふふという謎の感情とこのまま最後まで開かなかったらどうしよう(笑)というアホみたいな思いを抱えて混乱していると、Sonic Disorderのベース音が始まり、カーテンが開いた。途中まで五十嵐さんだけスポットで照明が当たっていて、暗い中で見覚えのある金髪のドラムが目に入った。まさか、と思った。照明が明るくなる。
そこにいたのは中畑大樹とキタダマキだった。ドラムのキックが会場を揺らし全身にビリビリときた。そこで鳴っていた音が鼓膜を揺さぶって脳髄まで届いているはずなのにどこか遠くにいるような浮遊感が僕の中にあった。五十嵐隆の公演に行ったと思っていたら実はSyrup16g再結成ライブに来ていたという淡い期待に似た錯覚と、もしかするとこれはすごく特別なことなのかなという喜びと悲しみが綯い交ぜになって渦を巻いていた。
Sonicが終わって皆が口々に思いのたけを叫ぶ。
おかえり!
待ってたよ!
まだ僕は茫然としていて、ありがとうと感謝の言葉を告げる五十嵐さんをぼんやりと見ていた。赤いストラトキャスターといつもの黒いシャツ。髪は生還Tシャツ(白)よりも短くなっていた。神のカルマのドラムが鳴って後ろの奴らひとたちがフゥー!てうるさかったおかげで現実に引き戻された。
全体的に連続で演奏することはなく、1曲1曲丁寧に演っているのが音からも分かった。「あんた嫌い」あたり歌詞が違ってた?間違ってた?ようなのもあったけど。
I・N・Mでもう本当に泣きそうになる。
「意味が足りないというのなら 位置が見えないというのなら 知りたくも無い自分とやらに 向き合うことしかない きっと」
深く刺さった。
生活。初めてSyrup16gを知ったこの曲だが、あんまり感慨深く聴けなかった。心のスピードが置き去りにされたまま演奏が進む。ただ、充電期間を経たからなのかギター上手くなった、と失礼な感想を。別に前が劇的に下手だった覚えも無いんだけど。生活のギターソロのあとで後ろのひとたちが拍手してた。
赤いカラスは犬が吠えるの頃の曲で、自分はどこかで聴いてたので知ってるけど、サビの歌詞とメロディーが違ってた。合ってるか分からないけどついったに流れてた情報を合わせつつ以下に補完。
当たり前に月日は流れるだけ
その光のない輝きもいずれ闇に堕ちる
ひとりだけど 往け 往け
永遠はない 夢 夢
繰り返され 往け 往け
最後の方で往け 往けっ 往けっ! 往けェーーーーーーーーッ!と叫んで終わった。
ここから新曲ラッシュ*1。みんなずっと静かに見てた。棒立ちで。微かに揺れて。他のみんながというより、僕の心の中が棒立ちに近かったのかもしれない。
新曲1((便宜的に番号をつけました))は「隣で」から始まるミディアムテンポのゆったりとした曲だった。とにかく「とーなーりでー」だったのは覚えてる。
新曲2はドラムのキックが ダダンッダン ダダンッダン ダダンッダン ダンダンダン てリズムの曲((やばい全然伝わる気がしない。すいません。))。
新曲3に入るときにギターだけのイントロ((ジャーン、ジャーン、ジャーン、ジャーン ていう、あ、びたいち伝わりませんねこれ))の後ドラムが入ってくるとこで一度演奏が止まって笑いが漏れた。五十嵐さんが『失礼しました!』と歯切れよく言って拍手が起こる。再開して始まったのが別のイントロで(あっ、曲順とばしちゃったのか)と分かった。「あてもなく 透明な日 繰り返そう 不安 普段何も見せず」((歌詞はホント自信ないです))から始まる静かでメロウな曲。
新曲4は軽快な感じの曲だったはず。Anything for todayを明るくした感じのイントロ。
新曲5は「楽しかったよ ひとりは 意味ないから 泣いてる」((絶対歌詞違ってると思います))みたいな始まりのスローバラッドな曲。イントロは正常を泣きメロにした感じ。
どの曲の時だったかはっきりしないけど、正面からのライトに照らされた五十嵐さんの影が後ろの壁に映って、曲が進んでそこに中畑さんの影が重なったのが心を鷲掴みにされたような気がした。
個人的な感想は新曲1〜5とも全体的に人生の終盤みたいな哀愁溢れる曲のイメージだった。1日の時間の中で言ったら夕暮れから宵闇の頃みたいな曲たち。時々不協和音的に聞こえてしまったせいかあまり深く揺さぶられるような曲がなかった。あ、真っ白なタイムテーブルみたいな歌詞の曲ありましたね、どれだっけな。もっとキレまくってるのも聴きたいなあという贅沢なお願いを心の中で、した。
(老人がバス停で バスは来ない的な内容の歌詞があったみたいですけど映画のゴーストワールドにそんなのありましたね)
ここで中畑さんマキリンが去りここで五十嵐さんのソロ。アコギ(ハミングバード)に持ち替えて、ここでMC。
『昨日寒かったですね・・・
鼻風邪をひきました・・・(鼻をかむ)』
男1「おだいじに!」*2
『…えっ?』
会場「(笑)」男1「おだいじに」
『・・・! おかえり って言ったのか!(納得)』
男1「!?」
会場「おかえりー!」「おかえり!」拍手
男2「待ってたよ!!」
『ありがとうございます』
祝福されたような拍手の中、明日を落としても。
「つらい事ばかりで 心も枯れて あきらめるのにも慣れて したいことも無くて する気も無いなら無理して生きてる事も無い」
武道館の時とほぼ変わらないような格好で立ったまま弾かれる曲を、見て、ここで、(何も変わっていないのか、そのままで、本当に何も変わらなかったのかな、なら、この4年間ってなんだったのかな)と少し感じるのと同時に、本当に4年間何もしてなかったら、こっちに届く歌なんて歌えないんじゃないかと思った。じわじわと心が氷解していく。途中でギター止まってアカペラみたいになってた部分で完全に融解した。
二人が戻ってきて、センチメンタル。ここからはもう本当に純粋に楽しめるようになっていた。
月になって。ここまでの流れがすごく心地よくて、途中少し目を閉じて聴いていた。
ここで五十嵐さんが再び鼻をかんでステージの床にポイと投げ、小さな笑いが起こる。
『あぁ・・・今の笑い方で自分の母親だって分かりました』
なんで39歳*3がこんなにかわいいんだろう、ずるい。
続いて落堕、天才、coup d'Etat〜空をなくすと怒涛のナンバーが続く。演奏は素晴らしく、どれもギターソロが完璧だったことから、五十嵐さんの本気を見た思いがして嬉しい。あと、五十嵐さんは相変わらずタオルで顔を拭いていた。惜しむらくは、会場が椅子に座って観るような場所で、飛び跳ねたくなるほど楽しくなってもあんまり動けないのと周りが相変わらずの棒立ちなのでここは楽しめよ!あほ!という淡い怒りの感情が僕の中で喧嘩していたことだ。
『ありがとう』を言って両手を合わせた格好(ナマステみたいなポーズ)で去っていく。
アンコールの拍手が起きた時に僕が驚いたのは、拍手が揃う→だんだんテンポが速くなる→速くなりすぎてゆっくりのテンポで再開する、といったアンコールあるあるが一切なかったことです。皆の心が一つになっていたというよりも、誰も周りと拍手を合わせようとしなかったのか・・・(笑)。協調性に欠けてますね(笑)。
戻ってきたアンコールで弾かれたパープルムカデ。確かこの時はホロウボディのメタリックなストラトキャスターだった気がします。黄金の左(足)は殆ど上がっていなかった。この3人で、ライブをもっと観たいなあ、と思ってしまう。もっと観ていたい。
そして、リアルへ。Syrup16gのライブが好きだったのは五十嵐さんの歌とギターだけじゃなく中畑さんのドラムとマキリンのベースがあればこそだったように、今さら気付く。本当に、今さらだな。僕は何だか無性に叫びたくなって、でも出来なかった。それは、また心と身体がバラバラになったような、寝ぼけた時の金縛りみたいな心はすごく動いているのに身体にちっとも反映されないあの感覚に陥っていたからだ。
そして、また同じ所へ戻っていく。もっと観ていたくて必死になって拍手をし続けていた。
一人だけ戻ってきた五十嵐さんは自筆の生還Tシャツ(黒)に着替えていた。あのー、えー、その、と、どもりながらMC。
『ありがとうございました。』
『こんな機会を持てるなんて半年前は思ってなかったので・・・。
あんまりこういうこと言うのはアレなんですが、
感謝というか、
今日ここに来てくれた皆さん。
UK Projectの遠藤さん(daimasさん)。
VINTAGE ROCKの若林さん。
スタッフの皆さん。
あと、やっぱり、すごく色々な葛藤があったと思うんですけど、
一肌脱いでくれた中畑くんら2人に感謝したいと思います。
ありがとうございます。』
『翌日という曲があります。
これはものすごい昔、もう10年くらい、もっと、20年くらい前は別の形であって、メロディーを変えて皆さんが御存知の曲になったんですけど。
中畑くんにチャリンコで聞かせに行ったような時の曲を、歌詞だけ変えて作ってきたので、聴いて下さい。』
そう言ってゆっくりと鳴らされた音は今日一番聴きたかったような歌で、噛みしめるように必死で網膜と鼓膜と全身の細胞をフル動員して脳裏に焼き付けた。
後ろから赤信号で
消えた後の世界生きる 気にされない
息してない
それは同じこと自暴自棄になって生きても
音楽を愛せなくなっても
身代わりの影に
よすが*4が希望を忍ばせた孤高という名の幻想も
不幸という名の甘い蜜も
いじらしいほどに そう
あなたの傷痕になりたかったんだその時は・・・
プロトタイプの翌日が終わると同時に翌日のイントロが奏でられて、曲の途中から戻ってきていた中畑さん*5とマキリンがそこに音を重ねた。こんな、どうしようもない当たり前の終わりと始まりが同じ「翌日」で、同じ「NHKホール」でというのは、すごく粋で小憎らしい演出だと思った。
解散宣言をした場所で生還を果たす。生きて還ってきた。還ってきたんだ、遠回りして。
漫画やゲームだと大概帰ってきたところで終わってしまうし、逆に、生きて帰ってきたのに居場所も希望もなかったなんてストーリー、映画では腐るほどある。けど、居場所は無いなら新しく作るものだし、希望があろうが無かろうが続けていって欲しいと思う。あとCD出してください!!!お願いします!!!!!!
乱暴ながらこれでライブレポを終わります。次があることを願って!
セットリスト
- Reborn
- Sonic Disorder
- 神のカルマ
- I・N・M
- 生活
- 赤いカラス(途中の歌詞とかが変わってた)
- ラズベリー(新曲1)
- さえないコード(新曲2)
- 透明な日(新曲3)
- ヒーローショー(新曲4)
- 真昼のターンテーブル(新曲5)
- 明日を落としても(Acoustic Solo)
- センチメンタル
- 月になって
- 落堕
- 天才
- coup d'Etat
- 空をなくす
- encore1
- パープルムカデ
- リアル
- encore2
- 翌日(prototype ver. / Solo) 〜 翌日
改めて、チケット本当にありがとうございました。
後日談としていくつか。
- 生還Tシャツで五十嵐さんが弾いてるのベースじゃん(表「The last three years, I've been playing bass.」*6 裏「Today, I play guitar...」*7)。えっ?ベース弾いてたの?どこで?
- 終演後についったで中畑大樹さんとマキリンが書いてたことを読んで泣きそうになった。
いろいろと
本当にいろいろと
思ったり考えたりしましたが
いつの日かたいこを叩けなくなる日が来る
ひょっとしたら明日死んでしまうかもしれない
そう思ったとき純粋に
「もう一度Syrup16gの曲を演奏したいなあ」
って思ったんです
— 中畑 大樹さん (@daikinakahata) 2013年5月9日
色々あったけど、良かったかな。
— キタダマキさん (@ktdmaki) 2013年5月8日
- 5/15発売のMUSICA6月号に新曲のタイトルが載っていたのでセットリストに追記しました。