乱歩地獄

横浜ニューテアトルに乱歩地獄を観に行った。
駅までの道、君を自転車に乗せて僕は朝から全速力で走り筋肉痛。電車に乗り遅れて君の勘違いを責めた。化粧を嫌う理由が増えた。君が変わるのなら僕は悪者にでもなりたいと思っての行動に出たけれど、自分は酷いな。後で罪悪感に胸が痛んだ。僕の決心の薄い行動はいつも君を傷つけている。冷たいのは体じゃなくて心。時間はいつも僕らを引き離す。
沈黙と投げやりな言葉を繰り返して電車を乗り継ぐ。走らない君を奮い立たせる為に皮肉を言ったり、乗り換えに3分しか無い駅で切符が詰まった事や、地下鉄を遠いと思い込んで根岸線へ向かったら地下鉄の方が早かったり、結局30分ほど遅れて映画館へ駆け込む。
乱歩地獄は四作品のオムニバス形式の映画である。全編に浅野忠信が出ていて、二枚目から三枚目までこなしている。矢張り格好良い。
残念ながら既に「火星の運河」は終わっていた。「鏡地獄」の途中から入場した。いきなり眼に飛び込んだのは淫靡なシーンで少し驚いたが、背徳感であったり性的倒錯を感じさせるシーンが描写に必要となるケースは少なくないのでR-15指定と訊いていたし、狼狽は少なかった。エロ・グロ・ナンセンスとはよく言うもの。映像としては自分の抱いていた乱歩作品のイメージに一番近いと思う。とはいえ小学生以来江戸川乱歩を読んでいないので記憶が薄い上に僕の乱歩のイメージは怪人二十面相一辺倒だけれど。鏡文字は少し読みづらかったかな。球体の鏡の中に入ったら何が見えるか?の答えは結局何だったのか。
続いて「芋虫」。気持ち悪さは群を抜いていた。松田龍平は屋根裏の監視者役だが床下にも居たり。妻の歪んだ愛情、が主題の様だが、確かに五体満足で戦地から生還するのは難しいからな。あんな妄執に囚われても宜(むべ)なるかな。これもエロティックな描写があるのだが、好きには成れないが鬼気迫るものがあった。小林少年が女の子だったのが意外。
最後に「蟲」。グロい描写が有るにも関わらずコミカルな部分がそれを不快に感じさせない。笑いを誘う妙な空気が有って、乱歩を抜きに観ても四作中で一番面白かった。漫画家のカネコアツシ氏が監督・脚本したそうで、成る程、滑稽な部分を抽出するのが上手い!と思った。残念なのは蛭のCGが安っぽい点か。緒川たまきは綺麗だった。昭和のイメージを遺しているのに携帯電話を使う異世界感も在った。
終わると、スタッフロールと共にゆらゆら帝国の「ボーンズ」が流れる。

「蟲」やゆら帝の所為か観劇後の重々しさはあまり無く、寧ろ爽快ですらあった。思わず顔が綻ぶ。

僕がパンフレットが有るよ、と口にすると君はお金も無いくせに迷わず其れを買った。外に出ると予報通りの雨だった。鞄を持っていなかったので買ったばかりのパンフレットが濡れてしまうのを危惧してビニール袋を貰う為にコンビニで買い物をした。君を外で待つ間に、親子がビニール傘を買って出て来て、母親は子供にそれを開かせた。すると自分の服に引っ掛かったまま広げた所為で傘の骨がいきなり折れて、わぁーってなっていた。親が理不尽に買ったばかりなのに!と怒っていたが、子供は何が起こったのか理解してない様子で笑えた。
横浜まで来たのは僕も初めてだった。少し遊びたかったけれど、雨の中を歩きたくなかったので地下街へ足を向けた。君が本屋に行きたいと言うので有隣堂へ。犬の図鑑を見てはしゃぐ。アフガンハウンドの髪型が先刻観た長髪の明智探偵こと浅野忠信に似ていた。重い本を持ち続け身動きが取れず暖房の熱に浮かされ空腹が増幅したこの辺りから僕は気分が悪くなっていた。君には悪い事をしたと反省している。
食事を摂らずに電車を辿った。海老名では寒い思いをした。それでも君はもう朝みたいな泣きそうな顔も膨れっ面も地下街で見せたどうしたらいいのか分からずに困惑した顔もしていなかったので少し安心した。
駅前のスーパーマーケットでカレーの材料を買って帰った。