繋いだ手の行方

  • 18:32

「いつまでも横で手を繋いでいてあげられない相手に、優しく手など差し延べてはいけないのだ。自分に余裕が無いくせに、そんな立ち振る舞いをしてはいけないのだ。離れてしまって相手を寂しがらせるくらいなら、始めから手なんか繋いではいけなかったのだ。いけないのだ。何もかも私がいけないのだ。」
…いけないですか。後悔してるのですか。そんな事、手を差し延べた相手に失礼ではないですか。何がいけないんですか。繋ぎたいと思った相手に手を差し延べて何が悪いんですか。いつか離れてしまう?それが何ですか。離れたらそれで終わりなんですか。それほどのものだったんですか。自分で繋ぎ留めることは出来ませんか。それともそんな努力もせずに来てくれる誰かを望んでいるのですか。傲慢ですよ。
「確かにそうかもしれない。でも、私は努力をしてきたつもり。貴方にそんな事言われる筋合いも覚えも無い。」
…つもり。胸を張って努力したとは言い切れないのですね。
「私は精一杯やってきた。それ以上どうしろって…。」
精一杯やった上を努力と言うのだと思っていましたが、違うのですか。
「だって、でも…。」
言い訳はみっともないですね。
「くっ。なら、貴方は胸を張って言えるっていうの!」
言えませんよ。
「なっ…!なら!」
他人の揚げ足取りは感心しませんね。…殆どの人は自分の事を自信を持って言えません。言える人は、我が強い中身の伴わない強がりか、実際に努力が出来ている優秀な人か、どちらかです。
「………………。」
沈黙。それもいいでしょう。それともこの場合は僕の物言いに閉口しているだけでしょうか。
「努力は足りなかったかもしれない。それでも、私は、寂しいと相手に思わせるくらいなら、いっそ…。」
繋がない方がよかった、と?
「…そう。」
本当に寂しい思いをしてるのは貴方ですよね。
「違う。私は寂しくなんか…。」
そうですか。
「そうよ。」
本当に?
「本当に。」
………………。
「今度は貴方が黙るのね。」
僕自身、寂しいと思わせることは悪い事では無いと思います。
「それは、酷くない?相手は寂しい気持ちで、待ってるんだ。それをほったらかしにしておいて、悪いと思っていない、なんて、貴方の方が余程、傲慢だわ。」
そうですね。僕は酷いと思います。傲慢なんでしょう。でも、僕はほったらかしにしてる訳じゃないんですよ。僕にだって僕の生活があります。僕の時間の全てを手を差し延べた相手に捧げて費やす訳にはいかないでしょう。逆に手を差し延べた相手もそんな事を望んでいない筈です。仮定として、それをお互いが解っている上で僕らは何をすべきだと思いますか。
「…何。」
少しは考えて下さい。
「私は、寂しさがあるなら、取り除いてあげたい。一刻も早く。」
そうですね。それで良いと思います。すべき事は、過ぎた事を引き擦るのではなく、今どうするか、です。都合のいい物言いかもしれませんけれどね。
「でも、そう。確かに、そう。寂しがらせている事を嘆いているだけでは何も変わらない。」
逆に、寂しがっている事を嘆いているだけでは何も変わりません。
「そうかしら。」
そうですよ。直接言えば良いのだと思います。
「相手を困らせたりしない?」
そんな遠慮ばかりしていては解決もしないではないですか。
「そうだけど、それで嫌われたら…。」
考えてばかりでは前に進めないです。
「…貴方、さっきは『少しは考えて下さい』とか言ったくせに。」
無遠慮になれ、と言っているのではありません。行動が迅速なのは思慮深いのと同義なんですよ。
「そうかしら。でも、言ってくれた相手に何か出来たら。変わってくるのかも。」
えぇ、きっと。…おや、時間です。
「そう。また、話せる?」
どうでしょう。貴方次第です。
「手を繋ぎに行く。近い内に。」
えぇ。楽しみです。
「私も。」
では、また。
「またね。」