色彩

以前、君が訊いた。
――色はどうしてあるのかしら
どうしてなんて、僕は知らない。
人間の利便性の為に色があるのなら、独善的だなぁ。
生物の総意が視覚情報に集結するのなら、どうして人間と犬の見え方は、違う?どうして昆虫の中に複眼を持つ奴が居る?生きるため?生き延びるため?天敵の居ない僕等にはピンと来ない。ピントも合ってくれやしない。
光を無くしたら僕等は眼が退化するのだろうか。魚のように。僕等は暗闇を畏れて、火をおこし、光を手に入れた。人工の光で地上には夜の無い街が出来た。
自然の中の色を再現する方法が欲しくて、僕等は絵を描いた。形をそのままに切り取って残したいと考えて、僕等は写真を撮った。
色の無い世界を想像したらとても味気ないものだった。不気味ですらあった。とても幼い頃、昔の映像をスクリーンで観て、それは、活動写真と呼ばれていた頃の映画だったのだけれど、ちょっとした勘違いをした。というのも、僕は白黒の世界の中のテレビも白黒だったから、昔、世界には白と黒しか無くて、人々も何もかもに色が無い世界で暮らしていたのだ、と。だとしたらとてもつまらなかったのかなぁ、なんて考えていた。
僕等は今も過去も色彩の中で暮らしている。それは、それだけで素敵なことだ。今はそう思う。理由なんて考えるだけ野暮だ。
どうして色があるのか、無理矢理に結論は出せるけど、僕はそれを敢えてしない。