おもち

餅が喰いてえ、と近頃はそればかりに思いを巡らしている。兎に角、餅が頭を占領して離れない。ぷうと膨れたあいつが恋しい。そんなことに執心してるから、大事な人の言葉も余所事のようにくだらねえやと思えてしまって取り計らいも出来ぬ様。余りに突き放した態度ばかりとるので、俺はほとほと自分が厭になった。それもこれもみんな餅の所為だと決めてかかって、先刻買ってきて焼いて喰ってやった。こいつは旨い、これなら幾らでも入るとポコポコ喰っていたら三、四個くらいで腹が膨れやがった。鍛え方が足りないと見える。まあ腹に詰め過ぎるのも好くないもんだと納得させて散歩に出た。月は明るく町を照らしていて、寒さに涙ぐんでぼやけた双眸に其れは大層綺麗に見えた。天邪鬼な自分の中で鬩ぎ合う感情をどうにか押さえつけつけ戻った部屋は散歩に行く前と違い寒々と冷えていて、ただいまを云うこともおかえりを云われることもない。そのぐらいのことで淋しくなっている莫迦者をきっといつか誰も相手にしなくなり忘れてしまうだろう。此の世と清々して別れられるから余程好い。今日の日の俺よ、さようなら。


追伸
餅もあなたも悪かない。俺の所為だ、すまない。