眠るまでの数瞬の逡巡

nico.を買って以来あの子と何の気兼ねも無く話せるようになった。それ以前は電話料金に怯えているのを気取られないようにするのに憔悴した時期もあった。隠せなくて喧嘩をしたこともあった。問題が一つ雲散霧消した今でも僕たちは、些細な喧嘩と仲直りを繰り返している。
真夜中三時、眠れないあの子から電話がかかってくる。それは二時であったり五時だったりするけど、特に気に留めていない。
こちらが話を聞いてるとき、あの子は寝る素振りがない。だと言うのに、僕が話し始めると寝息を立てられてしまうことの如何に多いことか…!あの子が眠ることを目的とする場合、これは喜ぶべき事だが――あの子が眠れないことよりも自分の声から何か催眠作用のある音波が出てるんじゃないかという妄想で少し心配になる。
近頃はちょっとした短編を読んでみせたりしている。勝手に僕だけがずっと話しているとあの子は高確率で眠る。寝かし就けるとき、父親のような気持ちにはならない。単純に優しい気持ちと、上手く朗読しようという思いが僕を支配する。
眠りの世界で夢を見ないあの子に安らぎを。