夢を見た

すごく性能のいいヘッドフォン。薄くて彼の耳に馴染んでいる。拾うのは街の音。何だって好きな音を聴ける。好きな声を聴ける。
街を交差する古いバイパスの下の薄暗い道。そこは街のど真ん中の十字で、彼は歩きながら友達に電話する。
『今、高架橋を越えた辺りでしょ』
「よく分かったね」
『もうすぐすれ違うよ』
「え?」
訊かれる前に電話を切り、道路を挟んだ向かいに友達の姿を見つけると手を振った。オレンジの光が揺れた。
ヘッドフォンを着けた彼の背中には女の子が眠っている。彼の姿は髪が長くて仙人みたいだった頃の曽我部恵一だった。綺麗な夢だった。



目が覚めて彼女から電話があった。ごく自然なことだと思った。
夢の話をするとそっけない反応で、夢が汚されたみたいな気分になった。
さっきから虫の居所が悪いのはその所為だ。こんなことで怒る俺もどうかしてるけど、謝りたくない。